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めぐろのてら

目黒の寺

岡本 綺堂

「短歌研究」1938(昭和13)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,661 字 · 4 页

青空文庫

目黒には寺々あれど鐘鳴らず鐘は鳴らねど秋の日暮るる

◇

前にいった滝泉寺門前の料理屋角伊勢の庭内に、例の権八小紫の比翼塚が残っていることは、江戸以来あまりにも有名である。近頃はここに花柳界も新しく開けたので、比翼塚に線香を供える者がますます多くなったらしい。さびしい目黒村の古塚の下に、久しく眠っていた恋人らの魂も、このごろの新市内の繁昌には少しく驚かされているかも知れない。

正覚寺にある政岡の墓地には、比翼塚ほどの参詣人を見ないようであるが、近年その寺内に裲襠姿の大きい銅像が建立されて、人の注意を惹くようになった。いうまでもなく、政岡というのは芝居の仮名で、本人は三沢初子である。初子の墓は仙台にもあるが、ここが本当の墳墓であるという。いずれにしても、小紫といい、政岡といい、芝居で有名の女たちの墓地が、さのみ遠からざる所に列んでいるのも、私にはなつかしく思われた。

草青み目黒は政岡小むらさき芝居の女おくつき所

◇

寺を語れば、行人坂の大円寺をも語らなければならない。行人坂は下目黒にあって、寛永の頃、ここに湯殿山行人派の寺が開かれたために、坂の名を行人と呼ぶことになったという。