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めをひらく
眼を開く
夢野 久作
「逓信協会雑誌」1935(昭和10)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,759 字 · 20 页
その配達手君の出入りを、窓の隙間から這入って来た風ほどにも感じないようになってしまったものであるが、それでも配達手君は毎日毎日忠実、正確に往復八里の山坂をその健脚に任せて私のために、僅か二通か三通の郵便物を運んで来た。二三日分溜めて持って来るようなことは一度もないのであった。
性来無口の私は、その配達手君と物をいったことがなかった。先方から、つつましやかに、
「お早よう御座います」
とか何とか言葉をかけられても、頭の中に創作の内容を一パイに渦巻かせていた私はただ「ああ」とか「うう」とかいったような言葉にならない返事をして、ちょっと頭を下げる位が関の山であった。「御苦労さん」なぞいう挨拶がましいことを云ったことは一度もなかったのだから、金鵄勲章の配達手君にとっては嘸かし傲慢な、生意気な青二才に見えたであろう。
その中に私の創作の方はグングン進行して、遠からず脱稿しそうになって来たので、いささか安心したのであろう。或る寒い朝のことフッと気が付いてペンを投げ棄て、窓の外を覗いてみると、外は一面の樹氷で、その中にチラホラと梅が咲いているのに驚いた。最早、新の正月が過ぎて、大寒に入っているのであろう。