轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ちちぶきこう
知々夫紀行
幸田 露伴
「太陽」博文館、1899(明治32)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,784 字 · 31 页
流れの上へ上へとのぼるなれど、路あしからねば車も行きなずまず。とかくするうち夏の夕の空かわりやすく、雨雲天をおおいしと見る程もなく、山風ざわざわと吹き下し来て草も木も鳴るとひとしく、雨ばらばらと落つるやがて車の幌もかけあえぬまに篠つく如くふり出しぬ。赤平川の鉄橋をわたる頃は、雷さえ加わりたればすさまじさいうばかりなく、おそるおそる行くての方を見るに、空は墨より黒くしていずくに山ありとも日ありとも見えわかず、天地一つに昏くなりて、ただ狂わしき雷、荒ぶる雨、怒れる風の声々の乱れては合い、合いてはまた乱れて、いずれがいずれともなく、ごうごうとして人の耳を驚かし魂をおびやかすが中に、折々雲裂け天破れて紫色の光まばゆく輝きわたる電魂の虚空に跳り閃く勢い、見る眼の睛をも焼かんとす。ところは寂びたり、人里は遠し、雨の小止をまたんよすがもなければ、しとど降る中をひた走りに走らす。ようやく寺尾というところにいたりたる時、路のほとりに一つ家の見えければ、車ひく男駆け入りて、おのれらもいこい、我らをもいこわしむ。男らの面を見れば色もただならず、唇までも青みたり。牛馬に等しき事して世をわたるいやしきものながら、同じ人なればさすがにあわれに覚ゆ。