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いしころ
石ころ
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,450 字 · 23 页
「かくべつどういう意味ということもないな」新蔵は遠くを見るような眼をした、「云ってみれば命を賭して闘った戦場の記念にという気持もある、だが、そういうことは別にしておれは石が好きなんだ、石といってもこういうありふれた凡々たる石がね、……世の中には翡翠とか、瑪瑙とか、紅玉とか水晶とか、玉髄とかいって貴顕富家に珍蔵される石もある、また姿の珍しさ色の微妙さを愛されて、庭を飾ったり置物にされたりする石もある、むろんそういう石にはそれだけの徳があるのだろう、けれども、見てごらん」かれは小石の一つを手に取り、妻に示しながらゆっくりと続けて云った。
「こんなのは何処にでもころげている、いたるところの道傍にいくらでもある、形も色も平々凡々でなんの奇もない、しかしよく見るとこいつは実になんともいえずつつましやかだ、みせびらかしもないし気取りもない、人に踏まれ馬に蹴られてもおとなしく黙ってころげている、あるがままにそっくり自分を投げだしている、おれはこの素朴さがたまらなく好きなんだ」
「それはそうでございましょうけれど、ただ素朴だというだけでは、いくら石でも有る甲斐がないのではございませんか」