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いしころ
石ころ
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,450 字 · 23 页
それで万三郎は駆け寄りさま押し伏せ、そのしるしをあげた。
「あっぱれ秋山どのお手柄」
そう呼びかける声がしたので、見ると、山県善右衛門が走ってゆく。いや違うこれは多田がと云おうとしたが、善右衛門はもう遠く去っていた。万三郎ははげしく舌打をし、弾正のしるしを郎党に持たせて再び敵中へ斬り込んでいった。
その日の合戦で万三郎はおなじようなことを三度まで見た。二度めは中村の柵の内、三度めは寺部の出丸で、そして三度とも木暮弾正を討ったのとおなじ方法だった。多田新蔵はまっしぐらに強敵へ襲いかかる、喉輪か脇壺か、または草摺はずれを刺し通して相手を倒すと、そのまま見向きもせずに次の強敵に向って斬り込んでゆく、いま自分の討った相手がどんな高名な部将であろうとも、決して首級をあげようとはしないし、「討った」と名乗りもしない、当の相手を倒すとそれなりまた強敵を求めて前へ前へと突進するだけだった。――どういうつもりだろう、乱軍で逆上したのか、それとも……それともなにか思案があるのだろうか、万三郎はいろいろ考えてみたが見当がつかず、ふしぎな戦いぶりをするやつだという訝しさだけが頭に残ったのであった。