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いしころ

石ころ

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,450 字 · 23 页

青空文庫

六

新蔵は布切れでなにか磨きながらそう云った、「ここでそんな口論をやってもしようがない、誰が誰を討ったかということは功名帳に記してある筈だ、功名帳をみればはっきりわかることだよ」そう云ってかれは磨きあげた物を掌の上に載せ、篝火の光りにすかしてうっとりと見まもるのだった。掌の上に載せられたのは小さな石だった、かれは万三郎の眼がその石に注がれたのに気づくと、ふり返ってにっと微笑しながら云った。

「これがおれのたのしみでね」

六

「これがおれのたのしみでね、そう申した眼つきは実に平安なものでした、これが半刻まえまで戦塵を浴びて馳駆した人間かと疑われるほど、のどかな、むしろ縹渺たる感じでした」万三郎はそう云って、改めて父の顔を見まもりながら、「そしてついに多田は本心を明かしませんでした、当人が知らぬといううえに山県善右衛門までが証人に出たので、木暮弾正を討った手柄は結局わたくしのものになってしまいました、それ以上に事実を主張しますと、却って妙な疑いを受けそうにさえなったのです」

「妙な疑いとはどのようなことだ」

「わたくしが故意に義弟へ功名をゆずるのではないか、あからさまにそう申した者もあるくらいです」