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いしころ

石ころ

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,450 字 · 23 页

青空文庫

「父上もですか、父上もごらんなすったのですか」

「新蔵はまっすぐに強敵へ挑みかかる、そして討ち倒せばそれなり跳り越えて前へ突っ込む、相手がどのような名高い者でも見向きもしない、その首ひとつが千貫の手柄になる相手でも、討ち伏せてしまえば未練もなく次ぎへと突進する、おれはいくたびかそれを見た、……そして戦が終って功名帳がしらべられると、かれには兜首ひとつの手柄も記されていない、誰某を討ったのは多田ではないか、そう云う者があっても当人は知らぬというし、乱軍のなかのことではあるし、首級をあげた者はすでに名乗っているので、そのままおちついてしまうのが例だった」秋山伯耆はふと眼を閉じ、当時を回想するのであろうかしばらく黙っていたが、やがてまたしずかに続けた、「世間はなにも知らずにかれを笑う、動作が鈍いとか、名乗りもはきとはできぬとか、……事実はいま話したとおり、人にぬきんでた手柄をたてているのだ、しかも世間がどんなに嘲笑しようとも、当の新蔵はひと言の弁明もせず黙ってその嘲笑をうけている、……どういうつもりだろう、おれにはしかしやがて合点がいった」

松尾は全身を耳にして、一語も聞きのがすまいと父の口許を見まもっていた。