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さとうどろぼう

砂糖泥棒

黒島 伝治

1923(大正12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,108 字 · 9 页

青空文庫

「戻させるんだ。」

「へえ、でも、あれは、一文も持っとりゃしません。」

「無いのか、仕方のない奴だ!――だがまあ二十円位い損をしたって、泥棒を傭うて置くよりゃましだ。今すぐぼい出してしまえ!」

「へえ、さようでございます。」と杜氏はまた頭を下げた。

主人は、杜氏が去ったあとで、毎月労働者の賃銀の中から、総額の五分ずつ貯金をさして、自分が預っている金が与助の分も四十円近くたまっていることに思い及んでいた。

杜氏は、醸造場へ来ると事務所へ与助を呼んで、障子を閉め切って、外へ話がもれないように小声で主人の旨を伝えた。

お正月に、餅につけて食う砂糖だけはあると思って、帆前垂にくるんだザラメを、小麦俵を積重ねた間にかくして、与助は一と息ついているところだった。まさか、見つけられてはいない、彼はそう思っていた。だがどうも事がそれに関連しているらしいので不安になった。彼は困惑した色を浮べた。彼は、もと百姓に生れついたのだが、近年百姓では食って行けなかった。以前一町ほどの小作をしていたが、それはやめて、田は地主へ返えしてしまった。そして、親譲りの二反歩ほどの畠に、妻が一人で野菜物や麦を作っていた。