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ガラスをやぶるもの
硝子を破る者
中谷 宇吉郎
「朝日評論」1946(昭和21)年8月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,761 字 · 14 页
先方では、あの研究は航空気象に関係があるので、航空に関する研究の中止命令にひっかかっていると思っているらしい。しかし米国側からは、研究の激励の言葉は再三受けたが、禁止的の言葉は一度も聞いたことがない。
終戦以来、あの研究所の施設は取り壊した方がいいだろうという勧告を、日本の人たちからしばしば受けた。しかし飛行機の研究さえしなければ低温の世界の気象学的研究を禁止されるはずはないと思って、そのままにしておいた。そして実際にその通りであった。日本の国に飛行機がなくなった今日、誰も酔狂に飛行機の研究などするわけもなく、それくらいのことは、アメリカ側にも分っているはずである。ニセコの研究の出来なくなった理由は、泥棒にはいられたからである。「硝子を割った者」は日本人なのである。
戦争が済んで莫大な消耗がもうなくなったのだから、半年もしたら、庶民の生活も今少し楽になるだろうとの希望的観測が、終戦後間もない頃、一般に期待されていた。しかし今日になって見ると、その希望的観測は美事に裏切られている。敗戦の痛手というものは、そう簡単に糊塗し終せるものではないらしい。
社会科学を勉強した人たちの意見によると、敗戦の重圧が本当に表面に現れて来るのは、戦後一年とか二年とか相当の時日が経ってからのことだそうである。