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すずりとすみ

硯と墨

中谷 宇吉郎

「座右宝」1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,996 字 · 22 页

青空文庫

もし一部分でも石墨類似の半結晶性のものに変化していれば、X線分析でわかるはずである。

今までは故意に紙のことに触れなかったが、墨色は紙によっても著しく異なる。墨の粒子と紙の繊維との附着力が、この場合に一役買いそうである。そうすると紙は純粋な植物繊維だけから出来ている紙を選ぶ必要がある。石粉のはいっている紙では、その石粉と墨の粒子との交渉がさらに加わって、問題をますます複雑にしてしまうであろう。もっともこれは想像であって、もしその点を確かめるとなったなら、同一性質の紙で石粉の全然はいらぬもの、いろいろな程度にはいったものを作って、その墨色の比較をまずやる必要がある。

しかしそういうことは、結局ちゃんと実験をしてみなければ、どっちとも言えない。全然わかっていないことなのであるから、当然の話である。ただ今のところでは、こういうふうにでもやれば、名墨の墨色というような、従来神秘的に考えられていたことも、科学的に研究し得る見込みがあるということが言えるだけである。墨の科学的研究などというと、墨の目方を測ったり、墨汁を一滴紙の上に落してその拡がる範囲を測ったりして、数字を沢山並べるだけのことと思う人もあるかもしれない。