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いそべのわかば

磯部の若葉

岡本 綺堂

「木太刀」1916(大正5)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,709 字 · 8 页

青空文庫

土地の人たちに出逢った場合には、私も真面目に「どうも困ります」ということにした。

どう考えても、今日も晴れそうもない。傘をさして散歩に出ると、到る処の桑畑は青い波のように雨に烟っている。妙義の山も西に見えない、赤城榛名も東北に陰っている。蓑笠の人が桑を荷って忙がしそうに通る、馬が桑を重そうに積んでゆく。その桑は莚につつんであるが、柔かそうな青い葉は茹られたようにぐったりと湿れている。私はいよいよ痛切に「どうも困ります」を感じずにはいられなくなった。そうして、鉛のような雨雲を無限に送り出して来るいわゆる「上毛の三名山」なるものを呪わしく思うようになった。

磯部には桜が多い。磯部桜といえば上州の一つの名所になっていて、春は長野や高崎前橋から、見物に来る人が多いと、土地の人は誇っている。なるほど停車場に着くと直に桜の多いのが誰の眼にも入る。路傍にも人家の庭にも、公園にも丘にも、桜の古木が枝をかわして繁っている。磯部の若葉は総て桜若葉であるといってもいい。雪で作ったような白い翅の鳩の群が沢山に飛んで来ると湯の町を一ぱいに掩っている若葉の光が生きたように青く輝いて来る。