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しゃかいじひょう
社会時評
戸坂 潤
「文藝春秋」1933(昭和8年)年6月~1937(昭和12)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,408 字 · 380 页
そうかと云ってお花やお茶のように、内容のない無意味なキマリや型を伝授するごとに金を請求するのだとまだ判りがいいが、不幸にして医学はお茶や花より少しは科学的であるために、医学の家元は、そうした秘伝を授けることが出来ないので、その代りに研究のテーマを分譲したり、研究論文を審査したりするのである。だが、それにした処が、医学博士の家元である教授達が、お礼やつけとどけを受け取るのに何の不都合もないわけで、例えばお花の奥の許しを五十円で売買したと云って今更騒ぎ立てるのが変なら医学博士を五百円で売買した処で大して驚くこともあるまい。なぜなら、お花の師匠の招牌に較べたら、医学博士の招牌の方はたしかに十倍の価格には相当するだろうからだ。医学博士はインチキだというが、決してインチキ処ではない、実はこんなに実質があるのだ。
苟くも年俸や講座料や審査料を貰っている官立大学の教授たる以上、お花やお茶の師匠と同じである筈はないじゃないか、と世間の人は云うかも知れない、併し不幸にして医学部の研究室(独り医学部には限らないのだが)は人の想像するような合理的な処ではないのである。