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しゃかいじひょう
社会時評
戸坂 潤
「文藝春秋」1933(昭和8年)年6月~1937(昭和12)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,408 字 · 380 页
だが恐らく乗ってすぐに後悔し始めたことだろうと思うのだが。
船の中での彼の懊悩を見て一等事物を公平に親切に考えたのは船長であったらしい。船長は先にも云ったように、帰国することを勧めた。処がシンガポールの邦人達はもっと虚栄心が強くて、日本人が勝つということが何につけ嬉しい植民地根性から、乗船を勧めたものだろう。そこへ庭球協会から、デ杯戦の基金募集がうまく行かぬと困るから是非行って呉れといって来た。庭球協会のこの勧め方は最も合理的であったようだ。併し庭球協会は一つの知識を欠いていた、もし佐藤選手が目的地に行くまでに自殺しないと、彼は必ずデ杯戦で惨敗するだろうという一つの正確な事実の知識を。そうした心理学だか生理学だかを最も好く知っていたのは不幸にして恐らく佐藤君その人に他ならなかったのだ。
協会のこの無知に対して世間は可なりに不満の意を表している。血族や友愛関係にある人達は憤激さえしているらしい。協会葬にもして要らないという気持にさえなっているらしい。それに恐れてかどうか知らないが、或いは寧ろ之を利用してであろうが、関西支部出の協会幹部は総辞職して協会の心胆を寒からしめているようだ。