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しゃかいじひょう

社会時評

戸坂 潤

「文藝春秋」1933(昭和8年)年6月~1937(昭和12)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,408 字 · 380 页

青空文庫

もし美濃部博士が一切の栄職を辞さねばならぬ大義名分があるとすれば、同様に之を勅選に奏請した臣下は一切の栄職を擲つべきだろう。なぜなら奏請する以上はこの学者の学説とその学術上の影響とを国家の見地から見て尊重すべきものと見倣したわけで、その点から云って夫々一個の美濃部主義者でなければならぬからだ。現在は美濃部主義者ではなくなったと云った処で、そういう転向は場合が場合だから弁解にならぬ。――まあ理窟はこういうわけだが、事実は、今まで責任を感じて一切の栄職を擲った奏請者はただの一人もいない処を見ると、必ずしも博士の例の栄誉に誤りがあったのではないことが立証されているし、博士も亦、その学説は云うまでもなく、一切の栄職を擲つ理由もないと主張している。他の人間共の云うのでは信用出来ないが、合理的に理性的に物を考え物を云う博士の言葉だから世間は広く之を信用するだろう。

で結局博士の学説に仮に何かの誤りがあったとしても(之は検事という専門家を信じる他ないので民衆の容喙すべき事柄ではない)、夫はその実質に於て名目程重大な意味のものではないのだ、という結論を、世間は這般の事情から惹き出すだろう。