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しゃかいじひょう
社会時評
戸坂 潤
「文藝春秋」1933(昭和8年)年6月~1937(昭和12)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,408 字 · 380 页
土堤評によると、党員の相当上の方へ行くと、この転向に追従する人間も案外少くないかも知れないということである。だが又、当局が皮算用している程に痛快な大動揺も、なさそうだという噂さである。前に云った山川均氏や青野季吉氏などは、それ見たことかと云った調子で、軽くひねって片づけているような始末である。
大衆は案外、英雄崇拝をしないもののように見える。そうだとすると、「巨頭巨頭」という招牌もそれ程効き目がないかも知れない。この間ある有名な左翼出版屋が、ファッショに転向したそうである。ナチスの焚書に倣って、日比谷公園で過去の出版物を焚刑に処するそうだという噂まで製造された位いである。だが之は「巨頭」の転向より無論前だから、原因は無論「巨頭」の転向などにあり得ないことは云うまでもない。原因は外にあるのだ。「巨頭」だってこの原因には意識的無意識的に動かされないとも限らない。
二、没落
転向問題で以て花見のように陽気になっている世間に、更に景気をそえるために、又吉報が現れた。河上肇博士が「没落」したというのである。河上博士自身にとっては没落するかしないかは大問題だが、社会的結果に就いて云えばあまり大して問題ではない筈だと思うのだが、世間が之を以て左翼の崩壊の吉兆だと見たがる処に、博士の没落の社会的な意味があるのだ。