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かみだな
神棚
豊島 与志雄
「新潮」1923(大正12)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,427 字 · 44 页
死ぬ時までそうだった。病気で足がふらふらになってからも、神棚の用と便用とへだけは自分で立っていった。もう起き上れなくなってからも、朝晩は必ず寝床の上に坐らせて貰ってお祈りをした。お久に供物をさせる時には、じっとその様子を見守っていた。病気が重って口も碌に利けなくなると、しきりに手真似で何か相図をしだした。その意味がどうしても分らなかった。彼女はじれだして、ひょいと床の上に坐ってしまった。俺達は喫驚した。無理に寝かしはしたが、それが彼女にとっては最後の打撃だった。仰向にひっくり返って、息を喘ませながら、喉に火の玉でもつかえてるような風に、変梃な口の動かし方をして、しきりに神棚の方を指さした。その手はもう冷たく痙攣りかけていた。お久が側についていて、頭を水で冷してやり、俺はまた大急ぎで、神棚に灯明を二つもつけ、神酒を上げ、新らしい榊の枝を供えたりしたが、まだ彼女の気に入らないらしかった。彼女の全身は神棚の方へ飛びかかってゆくような勢だった。骨ばかりの汚い手が神棚の方へ震え上り、白目がしつっこく神棚の方へ据えられ忙しない息がはっはっと神棚の方へ吐きかけられた。