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かぐらざか

神楽坂

矢田 津世子

「人民文庫」1936(昭和11)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,611 字 · 40 页

青空文庫

この肚を疾っくに見すかした馬淵の方では「義理人情で算盤玉ははじかれぬ」とはなから決めてかかっているので顔でにやにやしていても利子の胸算用は忘れないでいる。

主人からこの話を大むらのおっ母さんへ橋渡しをすると、願ったり叶ったりの仕合せだというので、おっ母さんが何遍か相模屋へ出かけてきては馬淵と会見する。そのうち、神楽坂裏へその頃流行りの麻雀屋を持たせてもらって、大むらをやめたおっ母さんがお初と暮すようになった。

おっ母さんのかねがねの念願はお初に金持ちの旦那をとらせて小料理屋か待合でも出してもらって、ひとつ人を使う身分になって安気に暮してみたい、というのだったが、馬淵は一向にこちらの気もちを汲まず、水商売はとかく金が流され易いから、と云うて麻雀も下火にならぬうちによい値で店を譲り、今の小間物店を出してくれたのだった。おっ母さんにはこれが不服でならないけれど、面と向って文句を云う訳にもいかない。しょうことなしに蔭で、お初へ爺さんの悪口をきかせるのがせめてもの腹いせであった。

金魚の鉢を眺めているお初の眼にはしらずしらずに涙のわいてくることがある。狭い鉢の中を窮屈そうに泳いでいる金魚が何やら自分のように思えてくるのだ。