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かぐらざか

神楽坂

矢田 津世子

「人民文庫」1936(昭和11)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,611 字 · 40 页

青空文庫

それをお初がむきになって停めたりすれば、解せない顔付きで「どうせ、遊んでいるんだのに……」と云うて、手持ち無沙汰げに渋々と下っていく。母のそつのなさをみせられるたびにお初は自分を恥じて顔を赧める。おっ母さんは自分を何んだと思っているのだろう。――恥じの中でこんな肚立たしい気もちにもなる。母のとり扱いをみていると自分は全で安待合へ招ばれたみずてん芸者という按配である。お初には母のそつのなさがどうにも我慢がならない。そのくせ面と向っては愚痴ひとつ云えぬお初なのだ。六つの年から母の手ひとつで育てあげられた、その恩義というのを母自身の口から喧ましくきかされてきたお初にとっては何かにつけてこの恩義がになっている。これを、つくづくと邪魔だなあ、と思う時があっても、お初には自分から取りのけるということが出来ない。そこで仕方なく我慢して、大ていのことはおっ母さんのなすがままにまかせている。しかし、夜のものの世話までされるのは、お初には何んとしても承知が出来ないのだ。子供の頃、何かの用事で大むらへおっ母さんを訪ねていくと勝手口へ出てくるお倉婆さんというのが、

「お金さん、お前さんとこのジャベコが来たよ」