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しんけい

神経

織田 作之助

「文明 春季号」1946(昭和21)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,754 字 · 28 页

青空文庫

「貫一つぁん、お上りやす」

と掴まれていた。高等学校の生徒だから金色夜叉の主人公の名で呼んだのであろうと思いながら、私はズルズルと引き上げられた。

「お馴染みはんは……?」

「ない」

「ほな、任しとくれやすか」

「うん」

私は乾いた声で言って、塩の味のする茶を飲んだ。

「ほな、おとなしい、若いええ妓呼んで来まっさかい、お部屋で待っとくれやすか」

「うん」

通されたのは三階の、加茂川に面した狭い三畳の薄汚い部屋だった。鈍い裸電燈が薄暗くともっている。

「ここでねンねして、待ってとくれやす。直きお出やすさかい」

垢だらけの白い敷蒲団の上に赤い模様の掛蒲団が、ぺったりと薄く汚くのっていた。まるで自動車にひかれた猫の死骸のような寝床であった。

「うん」

答えたものの、さすがにその中へはいる気はせず、私は川に面した廊下へ出て、煙草を吸いながら、妓の来るのを待った。

そこからは加茂川の河原が見え、靄に包まれた四条通の灯がぼうっと霞んで、にわかに夜が更けたらしい遠い眺めだった。私はやがて汚れて行く自分への悔恨と郷愁に胸を温めながら、寒い川風に吹かれて、いつまでも突っ立っていた。