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しんけい
神経
織田 作之助
「文明 春季号」1946(昭和21)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,754 字 · 28 页
レヴュの放送を聴いて、大阪劇場の裏で殺されていた娘のことを思いだしたためだろうか、一つには「波屋」へ行って、新しく出た雑誌の創刊号が買いたかったのだ。
難波へ出るには、岸ノ里で高野線を本線に乗りかえるのだが、乗りかえが面倒なので、汐見橋の終点まで乗り、市電で戎橋まで行った。
戎橋の停留所から難波までの通りは、両側に闇商人が並び、屋号に馴染みのないバラックの飲食店が建ち、いつの間にか闇市場になっていた。雑閙に押されて標札屋の前まで来た時、私はあっと思った。標札屋の片店を借りていた筈の「波屋」はもうなくなっていたのである。中学生の本箱より見すぼらしい本屋ではとても立ち行かぬと思って、商売がえでもしたのだろうかと、私はさすがに寂しく雑閙に押されていた。
戎橋筋の端まで来て、私は南海通へ折れて行った。南海通にもあくどいペンキ塗りのバラックの飲食店や闇商人の軒店や街頭賭博屋の屋台が並んでいて、これが南海通かと思うと情けなく急ぎ足に千日前へ抜けようとすると、続けざまに二度名前を呼ばれた。声のする方をひょいと見ると、元「波屋」があった所のバラックの中から、参ちゃんがニコニコしながら呼んでいるのだ。