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しんけい
神経
織田 作之助
「文明 春季号」1946(昭和21)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,754 字 · 28 页
ラジオの情報放送を毎日毎夜聴いていた頃、私は情報の内容よりも、その紋切型が気になってならなかった。毎日やっているのだから、自然に型が出来るのは当然だし、型など構っていられないという弁解も成り立っただろうが、毎日くりかえされる同じ単語、同じ声の調子、同じ情報の型を聴いていると、うんざりさせられた。戦争が終って間もなく、ある野外音楽会の実況放送があったが、紹介の放送員はさすがに戦争中と異った型を出そうとしたらしく、「ここ何々の音楽堂の上の青空には、赤トンボが一匹スイスイと飛んでおりまして、まことに野外音楽会にふさわしい絶好の秋日和でございます」と猫撫声に変っていた。私は世の中も変ったものだと感心しながら聴いていたが、その放送中赤トンボが三度も飛ばされたのには些か閉口した。しかし放送員の新機軸は認めることにした。ところが、あとでその時の音楽会に出演した人にきくと、その日はどんより曇っていて、赤トンボなぞ一匹も飛んでいなかったということである。私は興冷めしてしまった。新機軸を出そうとした放送員は、芸もなく昔の野球放送の型を踏襲していたに過ぎなかったのだ。