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ふくざわゆきち

福沢諭吉

高山 毅

ペンは剣よりも強し

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,555 字 · 109 页

青空文庫

いつもなら諭吉は、便所へいくのに、その部屋をとおらないのですが、いまはいそいでいるものですから、近道をして、つい、ほご紙をふんでしまったのです。すると、

「こりゃ、まてっ、諭吉。」

と、兄さんが大きな声でしかりつけました。

「おまえは、目がみえぬのか。これをみなさい。なんとかいてある。奥平大膳大夫と、とのさまのお名まえがかいてあるではないか。」

と、えらいけんまくです。八つ年上の兄さんのいうことですから、しかたがありません。諭吉は、

「ああ、そうでございましたか。でも、わたしは、つい、しらなかったものですから。」

と、いいわけをしました。

「しらなかったで、すむか。目があればみえるはずだ。とのさまのお名まえを足でふむとは、なんたることか。臣子の道(けらいや、子のまもるべきこと)をわきまえない、ふこころえものだぞ、おまえは。」

「わたしは、とのさまを足でふんだわけではありません。たまたま、わたしのふんだほご紙に、とのさまのお名まえがかいてあっただけのことです。」

「だまれっ、とのさまのお名まえのかいてあるものを、足でふみつけたことは、とのさまをふみつけたとおなじことだ。