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わたしのはは

私の母

堺 利彦

在线阅读堺 利彦《私の母(わたしのはは)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,425 字 · 11 页

青空文庫

しかし、父の俳句と、母の和歌とが、私の家庭における一つの面白い対立であった。ある時など、母が俳諧味の取りとめなきを指摘すると、父は和歌に面白味のないことを非難するという、文芸的論争が起ったことがある。

それから父は、俳諧の歌仙(つけあい)の実例を挙げて、その幽かな心持や面白味を懇々と説き立てたが、母にはとうとう何のことやら分らなかったらしい。お蔭で私には初めて少し「つけあい」というものの味わいが分った。しかしまたこういうこともあった。維新の際、小倉藩の志士何某が京都で詠んだという和歌に、「幾十度加茂の川瀬にさらすとも、柳は元の緑なりけり」というのがあった。ところが和歌の先生は、上の句の「とも」に対して、下の句の結びは「なるらん」でなければ法に合わぬと言って、さように添削したが、作者自身としては、たとい将来のこととは言え、少しも疑いのない堅い決心であるから、「なるらん」などという生ぬるい言葉はいさぎよくないと言って、あくまで「なりけり」を固持していた。父と母とがこの話をしあった時、二人の意見は全く一致して深く作者の意見に同感していた。

父と母とが面白くない(と言うよりはむしろ滑稽な)言い争いをしていたのを一つ覚えている。