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わたしのどくしょへんれき

私の読書遍歴

中谷 宇吉郎

「朝日新聞」1950(昭和25)年6月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,808 字 · 4 页

青空文庫

動機はあまりはっきりしないがあの麻の装釘が、何となく学問的に見えたからであろう。今から考えてみると妙な話であるが、紀平さんの『認識論』などという、晦渋をきわめた本が、ひどく深遠に見えて、三度くらいも繰り返して熟読これ務めたものであった。

三年の終り頃になって、田辺さんの『最近の自然科学』に凝り出した。これは『認識論』とはちがって、たいへんはっきりしていた。そのかわり内容がひどく高級で、電磁的質量や相対性原理の生まれるまでの物理学の悩みが、ひどく高級な学問のように思われ出して来た。それで物理学こそ我が生涯をかけるべき学問であると、急に態度を変えることにした。それで折角犬の解剖までやったのであるが、卒業二月前くらいになって、物理学科志望ということに変更した。

ところが厄介なことには、物理の入学試験には、力学がある。それを全然やっていなかったので、慌てて独学を始めた。しかし当時は簡単な力学の教科書などはなかったので、たしかダッフの教科書だったかを、図書館から借り出して来て、大急ぎで勉強した。とにかく無茶な話であるが、それでもどうにか東大の物理学科へ入学出来たので、そのままずるずると、物理学でめしを食うことになってしまった。