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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页
なお、俊基のかたみの品も、十郎の手から彼女へ渡させ、高氏自身は、怯むように、
「出仕の時刻も近いので」
と、次の間の塗籠へ身支度にかくれてしまった。
十郎にうながされて、彼女はやがて、ぜひなげに帰って行った様子である。高氏はほっとしながらも、なぜか心が重かった。非情は、自分の心を軽くするためだったのに、逆に自分のなした非情があとでは心を暗くしていた。
しばらくすると、十郎がふたたび見えて。
「殿。ご出仕になりますか」
「ム、出かけよう。小右京どのは?」
「おいいつけのように、兵五人ほど添えて、送らせました」
「あわれだな。いや戦乱の生む不幸な女は、かずしれまい。いちいち見てもやれぬ。十郎、馬の用意は」
「は。いつでも」
高氏は室を出た。
山荘の玄関には、馬や従者がさっきから主人の姿を待っている。高氏は羅刹谷の門を出て、駒下がりに坂道を降りて行った。
すると、さきに小右京を送って行った兵の一人らしい。彼方から駈けまろんで来たと思うと、供の十郎へ向って近づくやいな、大声で、途中の変を告げわめいた。
「なに。道誉の家来どもが、道に待ち伏せしていたと」
聞くと、すぐ高氏は、