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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页

青空文庫

――だから、そんな一面だけをここで見れば、彼には“君子ノ風”があるといっても、おかしくない。

池には、初蛙の片言が、ケロケロ聞え出している。

藤夜叉は、痩せていた。

「……えっ? では明日、三河へ帰してくださいますか」

彼女の身は、陽当りのわるい一室に、二人の老女の監視のもとに、道誉の留守中、軟禁されていたのである。

なんで、こんな理不尽な目にと、日夜、怨んでいたが、今は、

「ありがとうございまする」

と、早川主膳の前では、つい涙ばかりだった。

「いずれ、くわしいことは、殿からまた」

主膳は、すぐ去った。

主膳にすれば、何ともここは不面目な立場である。しかし、彼女はそんな彼を責めている眼のいとまもなかった。ただもう、

「不知哉丸はどうしていやるか。ともかくも、ここを解かれて、帰ることさえ出来れば」

と、それだけで、胸はいっぱいなのだった。

そして、明日の旅支度から、夕化粧まですました頃、ふたたび主膳が姿を見せ、彼のあとに、みちびかれていた。

「では、手前は退がりますが、殿が離亭の内でお待ちです。どうぞ、彼方の渡りから、山吹の内へおすすみを」

道誉は、湯上がり姿であった。