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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页

青空文庫

「ああ、どうなされたのでござりまする。やはり紛うなき藤夜叉さま。どんなにお探し申していたことやら知れません」

「篠村の右馬介どのはじめ、三河の一色党のわれらまで、八方、京を中心に手分けして、今日まで、お行方を尋ねていたのでございました」

「いざ、お立ちくださいませ」

「お供して、これよりすぐに、一色村へ」

「右馬介どの、刑部どの、みなあなた様の、ご生死すらも、あやぶまれて、お案じ申しておられますれば」

「…………」

なお、藤夜叉は、顔を上げなかった。それをかくして笠だけが微かにふるえている。

「さ、さ、いかなる御仔細かは存じませぬが、ともあれ三河へ」

「そこには、お愛しい不知哉丸さまも、とうにお帰りあって、日夜、母者のお名を呼んでおられますものを……」

と聞くやいな、藤夜叉は、ささえていた杖と涙から身を崩して、その怺えを、地の肌へじかに咽んで、泣き倒れてしまった。

十目十指

以来、門をとじて謹慎中の佐々木道誉へ、数日前に鎌倉表からの示達があった。「――下向して、不審を申し開くべし」との沙汰なのだ。

道誉はほくそ笑んでありがたくお受けした。心中思うツボとしたのであろう。