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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页
諸所の火の手もだが、流言蜚語も飛び、また何よりの混乱をまねいたのは、指揮者の能登が見えないことだった。
その能登殿は、宵のくち「何事が起っても登って来るな」と柵の屯へ言いのこして、ただ一人で丘へ登って行ったと分ったなども、さんざんな、てんやわんやのあげくであった。
「おかしいぞ」
誰からともなく、
「三つの妃小屋が三つとも、こよいにかぎって灯を見せぬ。ともあれ山上へ行ってみろ」
それからの狼狽さは、いうまでのこともない。彼らにもはじめて、事態の全貌がわかったのだ。
仰天して、組頭は、貝を吹き鳴らした。
高い所から流れた非常貝の音は、目付島や美田院の番所へ、この変をしらせるだけでなく、しきりに主将の能登の姿をも、求めていたのであったが、
「どうしたことだ?」
彼らはなすところも知らず、ただ右往左往の影をいつまで丘の上下にえがいていた。
「たわけよ。無駄貝ばかり吹き鳴らしたとて、追いつくことか」
おくれ走せに来た由良弥惣次、菱浦五郎などは、みな能登の肉親の者である。彼を叱ッて、兵を一手にまとめ、
「ここに見えぬなら、西へ落ちたときまっているわ。つづいて来い」