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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

それは軍虱のように、金剛山への寄手五万の兵にくッついて歩き、その数は何十ヵ所かしれず、軍の取締りも手のほどこしようがないのであった。

「飲まねえのか。おい」

忍ノ大蔵は、相手へ言った。

小酒屋めかした野天の腰かけ板へ、濁酒と串焼をもらって、その串ザシの肉を咥えて、串をぽんと捨てながら。

「権三」

「へい」

「まさか、牛の肉は食いませんなンていう汝でもねえんだろ。ま、やってみなよ。さかなも美味えし、酒も悪くはねえ」

「へ、肉だけをいただきます」

「なぜ飲まねえんだよ」

「でも、あっしはすぐ顔へ出てしまう方でしてね。親分もご存知のように」

「いいじゃねえか。酔のさめるまで、そこらの草ッ原でころがって帰えればいい」

「ところが、今日はそうしちゃいられねえんです。へい。……本庄鬼六さまから、千早城の真下にいる寄手の、名越遠江守さまのお手許まで届けろといわれて、大事な物をおあずかりして来た途中なんで」

「そうかい」

ふンと笑っただけで、わる強いもせぬ大蔵が、権三には変に小気味がわるい。こんな筈はないのである。大蔵は、かつての自分たちの放免頭であり、六波羅放免(密偵)二百余人の操縦に腕をふるい、自分はその大蔵の片腕ともいわれていたのだ。