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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

雨のすくない乾いた山林だと山火事もおこしかねない。

これは、所きらわず、夜どおしなので、油断もすきもならなかった。そして毎晩城兵をおちおち眠らせないことと、山上の少ない貯水量を消火につかわせてしまうのが、火箭の狙うところであった。

「たれだっ」

正成は、本曲輪の荒壁仕切りの一つの内で、うとうと、横になっていたが、火箭の叫びに、眠れてはいなかった。

「正季です、正季にござりまする」

と、外の暗い所で聞える。

「近くに、火箭が落ちたのか」

「は。それはいま消しとめましたが、忍ノ大蔵がやって来て、深夜ながらお目にかかりたいといっておりますが」

「なに、大蔵が?」

大蔵は、連れの権三と共に、城内の中木戸のそばにたたずんでいた。

まもなく、兵の声が、

「大蔵、通れ」

と、暗闇のうちで聞えた。

「へい」と、答えておいて。「権三、てめえはここで待っていろ」

「親分、そして、どうしたらいいんで?」

「途々、言った通りだよ。おれが呼んだら駈けて来い。もし都合が変ったらおれの方から戻って来る」

言い残して、彼一人、兵の影に従いて奥曲輪の路地を曲がって行った。

荒土で塗りたたいた埴生の小屋みたいな穴口が幾つもあった。