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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

これを扶けぬのは仏心にそむく。――一山の衆議はすぐきまって、宮は、大塔とよぶ大伽藍の天井裏に匿われた。

宮を追ッてきた東国兵は、はやチラチラ山上へ影を見せはじめる。二階堂道蘊みずからも、全兵力をひッさげて登山してきた。しかも大塔の地内にその本陣をおき、満山満寺の捜査にかかり出したのだった。

その間、大塔の本堂では、老僧以下あまたな僧が護摩の壇をめぐッて、日々、未明から暮夜まで、交代に読経の座を占めたまま、うごかなかった。「高野春秋」によれば、その折、一山はまったく協力同心して、一心不乱に“摩利支天隠形法”を修していたものといわれている。

法力の功徳か、宮の御運がよかったものか。総大将の道蘊は、とどまること三日ほどで、むなしげに、

「かほど捜しても見えぬからには、宮はほかか」

と、下山を令して、引きあげて行った。

宮は大塔の梁上から蜘蛛のように下りてきて人々の恩を謝した。そのときの宮の態度がいかにもよかった。卑屈もなく、おどおどしたようなご容子もみじん見えない。それいらい「さすがは違う」「やはり後醍醐の御子よ」と、急に心をうごかされて、宮への随身を思い出した若僧が少なからずあったという。