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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

城兵が“敵見山”とよんでいる北山へ今朝から出ばッていた正季が駈けて来て、ちらと了現の筆へ眼をくれたが、すぐ「兄者は上か」と、やぐら梯子の上を望んで登っていた。

「兄者っ。ご警戒を要しまするぞ」

「正季か。何を見た?」

「今朝来、敵見山にのぼって、展望に注意しておりましたところ、今日はしきりに敵の移動がみられまする」

「ふム。どの方面に」

「長野、観心寺、中津原口、三道ともにうごいていますし、遠くの東条、石川の空にまで、黄塵が立ち舞っているなど、ただごとではありません」

「そうか」

「敵のうちで新手の参加やら陣がえがおこなわれ、これまでにない猛攻撃を起そうとしているのではありますまいか」

「ならば、正季、吉兆だよ。よろこぶべきことかもしれぬ」

「とは、どういうご判断でございますな」

「後醍醐のきみの御脱出が、虚伝でないことを証している。――また、その御脱島は、首尾よく運ばれたものと観ていいだろう」

「そうでしょうか」

「海賊岩松の密報だけでは、まだ、よろこぶには早いと思っていたが、敵にそんな色が現われたのは、鎌倉六波羅共に、それの衝撃をうけ、ここの寄手を叱咤してきたことにちがいない」