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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页
矢作ノ陣
――となると、密使吉致と会う場所には、とくに注意が要される。
そこは裏山だが、大蔵やしきの庭つづきだ。四阿亭がある。
高氏はさきに行って待っていた。やがて直義が一個の男をつれて行く。男は笠売りか何ぞのような身なりだった。が一ト目で高氏にも信じられた。
どんな密談がおこなわれたかは、余人たれとて知るものはない。
ただこれも偶然や無理な結合でない自然なうごきの一つであったことは、後日おのずとわかってくる。なぜなら岩松党は元々、足利家の祖を父系とし、新田を母系として生じた一支族であるからだ。
「では早々、新田殿とも打合せ、共に前途のよい御武運と吉左右、お待ちしております」
吉致はこう別れをつげ、まもなく大蔵ヶ谷を立去った。その足で彼は飛ぶごとく、新田義貞の領地上野へ急いでいたのであった。
矢作ノ陣
長いあいだ、不遇に閉じ、先主の喪に閉じ、また時局をよそに閉じていたここの門も、今朝、八文字にひらかれた。
馬までが出陣を感知するのか。馬つなぎではバリバリとまぐさを噛みあう音がすさまじい。それほど邸内の一刻は今しんとして、広場は勢揃いの弓箭にかがやき、高氏のすがたを遅しと待ちながら、中門の打水もしずかな朝雲を映していた。