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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页
ここでも、七里ヶ浜の波に交ぜて、誰からともない鬨の声がどっとあがった。執権邸の前でしたそれとはことなる本心からの唱和だった。これでみても、すでに将士のあいだでも、足利家のうちに鬱々とこもっていた長年月が、なんとはなく今日という日を待って、いまや爆発寸前の異常をおびていたもののようだった。
三日め、行軍は箱根越えにかかっていた。高氏は、
「箱根権現に戦勝の祈願をこめん」
といって、ここでまたまる一日を費やした。
しかし、じつはほかの予定もあったことらしい。その日、下野から国元の人数およそ百五十騎が追ッついて来た。そのうえ高氏は彼らのうちから、つらだましいのすぐれた侍二十人を別にえらび出して、
「そちたちは参陣におよばん。べつな大事に差し向ける。いかなる任務かは、師直によう申してある。師直より聞くがいい」
と、いいわたした。
師直はその二十名を、近くの山林のうちへ連れて行った。そしてどんな密命が言いふくめられたのか、ほかの兵にはわからなかった。――後日には、あのときすでに、そんなご用意であったのか――と高氏の遠謀をみな思い合せたことではあるが、そのさいはただ、