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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页
そして高氏と酒くみ交わしながら、いよいよ、機密な熟談に入っていた。
――もう暮色が降りていたのに、内からは、灯を求める声もしなかった。そしてただ、水屋ざかいの壁の蔭に、さっきから、身をかがめていた女があった。女の白い横顔は一本のこぼれ針みたいに、しんとそこの暗がりに澄みきっていた。
「よく飲がるな」
道誉すら、高氏の飲み振りには、目をみはった程である。高氏は、ぼうと、おもてに紅霞をただよわせて、
「美味くてならぬ」
と、弾むのだった。
「あの頃とは、だいぶお手が上がったの」
「さよう。十一年もたてば、高氏とて、すこしは大人になり申そう。それにこの伊吹へまいると、なぜか大酔がしたくなる。かつまた、今日は二人の間に、一蓮托生の約がむすばれためでたい日だ。酒の美味からぬわけはない。が道誉、貴公はまずいのか」
「いや、飲んでおる」
「はなしは、すんだはずだな」
「確と、すんだ」
「ならば、もそっとお身も飲み給え。もし高氏が、武運つたなく、野末に屍をさらしたら、道誉、おぬしに、くれてつかわすよ」
「なにをば?」
「あとの天下をだ」
「まだ取りもせぬ天下をば。あはははは、これは、少々ご機嫌におなりとみえる」