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あきふかき
秋深き
織田 作之助
「大阪文学」1942(昭和17)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,176 字 · 27 页
男はぶつぶつした声でなだめていた。しまいには男も半泣きの声になった。女はヒステリックになにごとか叫んでいた。
夕闇が私の部屋に流れ込んで来た。いきなり男の歌声がした。他愛もない流行歌だった。下手糞なので、あきれていると、女の歌声もまじり出した。私はますますあきれた。そこへ夕飯がはこばれて来た。
電燈をつけて、給仕なしの夕飯をぽつねんと食べていると、ふと昨夜の蜘蛛が眼にはいった。今日も同じ襖の上に蠢いているのだった。
翌朝、散歩していると、いきなり背後から呼びとめられた。
振り向くと隣室の女がひとりで大股にやって来るのだった。近づいた途端、妙に熱っぽい体臭がぷんと匂った。
「お散歩ですの?」
女はひそめた声で訊いた。そして私の返事を待たず、
「御一緒に歩けしません?」
迷惑に思ったが、まさか断るわけにはいかなかった。
並んで歩きだすと、女は、あの男をどう思うかといきなり訊ねた。
「どう思うって、べつに……。そんなことは……」
答えようもなかったし、また、答えたくもなかった。自分の恋人や、夫についての感想をひとに求める女ほど、私にとってきらいなものはまたと無いのである。