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しゅうふうふき
秋風不帰
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1939(昭和14)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,593 字 · 28 页
一
一
「ねえお侍さん、乗っておくれよ」
「しようのない奴だな」
狩谷夏雄は苦笑しながら振返って、
「何度も云う通り拙者は城下まで行くのだ、ここはもう柳繩手の町外れではないか、ここから馬に乗ってどうするのだ」
「それでも、……ねえ乗って下さいよ、……じゃなければ草鞋を一足買っておくんなさい、お侍さんのは、もう緒が切れそうだよ」
年は十六か七であろう、まっ黒に日焼けのした顔に似合わず、頬冠りの下から覗いている眼は、人懐こい艶々とした光を帯びて、肯かぬ気らしい唇許も、娘のようにしっとり湿っている。……畦道のかかりから痩馬を曳いて、しつこく従いて来るのだが、その調子がどこかしら普通の馬子でないものを持っているということに、夏雄はすこしも気付かなかった。
「ねえ、草鞋を買っておくれよ」
「うるさいな馬子、拙者は城下に家があってそこへ帰るのだ、五年の旅を終えていま家へ帰るんだから、草鞋だっていりはしないよ」
「じゃあ、お侍さんは御家中の人かい」
「そうだ」
「それじゃあねえ、若しや……」
馬子が、つと側へ寄ろうとした時、
「おい、その馬ぁ空いているのか」
と後から声を掛けた者がある。