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しゅうふうふき
秋風不帰
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1939(昭和14)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,593 字 · 28 页
――隙だ。
夏雄は猛然と踏み出しながら、
「行くぞ、えいッ、えいッ」
初めて絶叫する、と同時に、だあっと疾駆して来た放れ馬のうしろを飛鳥のように、南側の町家の露路口へとびこんだ。
「逃げたッ」
「やるなッ」
声は夕闇のなかに、千切れ飛んだ。
三尺そこそこの露地である、表の騒動をこわごわ覗いていた町人たちが、悲鳴をあげつつ家の中へ逃げ込むのを、眼の隅にまざまざと見ながら夏雄は一気に走り抜けた。
裏の草原は空地だった。
本能的に右へ行こうとしたが、その方には武家屋敷のあることに気付いて踵を返す、とたんに右足の草鞋の緒がぷつりと切れた。
――しまった。
と、思ったが追手の足音はせまっている、足に絡まる草鞋をそのまま左手へ脱兎の如く走りだす、とすぐ家裏の暗がりから、
「その方には手が廻ってるよッ」
と、呼びながら夏雄の前へとび出して来た者があった。
「ここへ隠れな、早く」
「誰だ」
「誰でもいい早くッ、そら来るよッ」
云いながら夏雄の手を取って、鼠のように家の蔭へと引摺り込んだ。
貧乏長屋の裏手で、薪小屋と繭乾し場の並んでいるあいだに二尺許りの隙間がある、二人がもぐり込んだのはそこだった。