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かがくとぶんがく

科学と文学

寺田 寅彦

「世界文学講座」1933(昭和8)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,562 字 · 50 页

青空文庫

するようなものは存外にはなはだまれである。そうして、小説的戯曲的構成という形式的要求から、いろいろの無理な不自然な仕組みを使う必要が生じるので、結局はつじつまを合わせようとするために、かえってつじつまの合わぬ大きなうそをこしらえ上げることになりやすい。それで、こういう種類のいわゆる科学小説は、たいていは科学者にはばからしく、素人には科学に対する重大な誤解の誘因ともなりうるのである。

これに反して科学者が科学者に固有な目で物象を見、そうして科学者に固有な考え方で物を考えたその考えの筋道を有りのままに記述した随筆のようなものには、往々科学者にも素人にもおもしろくまた有益なものが少なくない。チンダルのアルプス紀行とか、あまり有名ではないが隠れた科学者文学者バーベリオンの日記とかいうものがそうである。日本人のものでは長岡博士の「田園銷夏漫録」とか岡田博士の「測候瑣談」とか、藤原博士の「雲をつかむ話」や「気象と人生」や、最近に現われた大河内博士の「陶片」とか、それからこれはまだ一部しか見ていないが入沢医学博士の近刊随筆集など、いずれも科学者でなければ書けなくて、そうして世人を啓発しその生活の上に何かしら新しい光明を投げるようなものを多分に含んでいる。