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かがくにこころざすひとへ

科学に志す人へ

寺田 寅彦

「帝国大学新聞」1934(昭和9)年4月30日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,605 字 · 8 页

青空文庫

しかし、これは思い違いである。実際はやはり普通の講義や演習から非常なお蔭を蒙っていることは勿論であって、もしか当時そういう正規の教程を怠けてしまっていたらおそらく卒業後の学究生活の第一歩を踏出す力さえなかったに相違ない。講義も演習もいわば全く米の飯のようなもので、これなしに生きて行かれないことはよく知りながら、ついつい米の飯のおかげを忘れてしまって、ただ旨かった牛肉や鰻だけを食って生きて来たような気がするのであろう。講義の内容は綺麗に忘れているようでも入用なときに本を読めば、どうにか分かるようにちゃんと頭の中へ道をあけておいてくれたものはやはり三十年昔の講義や演習であった。云わば実戦に堪える体力を養ってくれた教練のようなものであったのである。平凡な結論ではあるが、学生のときには講義も演習もやはり一生懸命勉強するに限るのであろう。

しかし、米の飯だけでは生きては行かれぬように、学校の正課を正直に勉強するだけで十分であったとは思われない。やはり色々の御馳走も食う必要があったと思われる。自分の学生時代にどんな御馳走があったか。思い出すままに順序もなくその二、三を書いてみる。