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かがくほうほうろん
科学方法論
戸坂 潤
「科学方法論」岩波書店、1929(昭和4)年6月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,035 字 · 284 页
カエサルがルビコン河を渡ったという事実は無論、他の人が之と同じくルビコン河を渡ったという他の一つの事実と同じではない、それは異った二つの事件である。併し今この事を、或る誰人でも好い二人の人間がルビコン河を渡った事件としてのみ見るならば、二つの事件は異っているにしても共通の普遍的事件の二つの場合に過ぎないであろう。渡った一人はカエサルと呼ばれたローマの将軍ではなくして偶然に選び出された人類の一員でしかないであろう。この場合のカエサルは他の何人によっても置き換えることを許さない歴史上唯一の個人としてのカエサルではなくして、向の他の一人に対して単にその人と異る処の一人の人間に過ぎない。処が之に反して歴史上の個人としてのカエサルはこの人間に対して個別な人間でなければならない。前者は云わば量的個別、後者は質的個別――それのみが本当の個性をもつ――である。両者は別である。そこで自然科学の対象は量的個別は有つであろう、質的個別に対しては歴史科学のみが関心を有つのである。事実、歴史家は或る対象が普遍的な・一般的な性質を有つ限り、之を記述するのではなく、それが特殊であり個別的であり個性を有つ限り、之を記述する理由を見出すのである。