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かがくしゃとよみせしょうにん
科学者と夜店商人
海野 十三
「科学画報」1929(昭和4)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,858 字 · 8 页
それは常識で考えても、又気象報告を調べても有り得べきことではない。
重力の方の変動も、あまりに数値が大きいので勿論あり得べからざることだ。するとこの問題はいよいよ特殊の場合について研究することを要する。それには先ず液体について、疑問の矢を向けるべきであろう。何か特殊な溶液であるかも知れない、と考えたので科学者はいきなりバケツの中へ手をつきこんでみた。
「困るなア、旦那」とその薄ぎたない男が顰めッ面をして叫んだ。科学者はその間、早くもこの溶液が常温にあることと、多少の酸に似た臭気のある事を発見した。で彼は更に進んで聞いた。
「この液体はなんですか?」
「エエ……」
「この液体はナンであるですかッ?」
「これかネ――これは泥水でさア」
「アノ泥水――土の粒子を飽和した水……だと言うのかネ」
科学者は眼をパチクリとしたが、その瞬間に彼の推理はプロペラの如く廻転をはじめた。――泥とは水を飽和したる土である。土というのは大地の微粒子である。大地は良い電導体であるし、水も電導体である。酸に似た臭気のあったところから、酸が混入したあったとすれば益々電導体の液体であると言わなければならない。