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ひめられたるそうわ
秘められたる挿話
松本 泰
「苦楽」プラトン社、1926(大正15)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,690 字 · 18 页
然し出来るだけ確実な証拠を集めて当人に自白させなくてはなりませんから、それで何か参考になるような材料を頂けないかと思って伺った次第です。当人は外出先から帰る途中、筋向うの荒物屋へ立寄て煙草を買い、それから家へ帰ると表戸が閉っていたので、暫時戸を叩いたが返事がなかった。そこで雨戸を外して家へ入ったら老婆が殺されていたと申立てています。然し荒物屋の内儀さんの言葉によると、その時衣川は左右別々の下駄を穿いていたというのです。それに衣川は毎朝荒物屋へ煙草を買いにくるが、晩は他所で買うと見えて、きた事がないのに、その晩に限って買いに来た事、及び彼の袂に手のつかないバットが二箱も入っていた事、そんな事実から推して、彼は不在証明を立てる為に、わざわざ荒物屋を起して煙草を買ったものと認めております」
「然し衣川という下宿人は、昨夜十一時前後には家に帰っていたと思います。窓に灯火が点いていて、マンドリンなんか弾いていたようです」
「いや、マンドリンの音を聞いたと仰有るのは錯覚でしょう、或は時間が違うかも知れませんが……荒物屋の内儀さんもそんな事をいっていましたが、私は問題にしておりません。