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ちちぶのみやでんかにじしてやりがたけへ
秩父宮殿下に侍して槍ヶ岳へ
木暮 理太郎
「女性改造」1923(大正12)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,876 字 · 20 页
無理をすれば六、七十人は泊れるであろう。其中三分の一程の所から仕切った奥の間を殿下のお部屋に充て、板敷の上に羚羊の毛皮を敷詰めてあった。この小屋は中房温泉のもので、主人の百瀬君も登って来ていた。小屋にお着きになったのは十一時半頃であったろう。殿下はお出迎に参じた慶応の早川君や青木君をもお呼寄せになって、スープ、ライスカレー、紅茶等をお作りになり、一同は殿下のお相伴をして昼餐を済した。「今日は広いから昨夜のように物を焦すようなことはあるまい」とお笑いになったが、早川君の作ったライスカレーが煮えこぼれて毛皮をしたたかに汚したので、「どうもうまくゆかぬものだ」とまたお笑いになった。
午後二時頃になって風が幾分か穏になった様子であるから、槍の絶巓へお伴申上げることになった。殿下のお好みによって、綱の使用法を実地にお目に懸ける為に、槇君が御先導で、殿下、早川君の順に綱で結び合い、普通の登路より少し左に寄った直立八十米の岩場を御登攀になった。この綱は殿下が槍穂高間を御縦走なさる際に使用する筈で用意されていたものである。そして槇君一人では手不足なので、早川君が参加することになっていたのであった。