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ほどよいひと

程よい人

豊島 与志雄

「女性線」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,328 字 · 21 页

青空文庫

薄茶のウールの洋服地があったので、スーツ一着分を京子にも買ってやった。その新調のスーツを着た京子は、これまでの黒ズボンの姿に比べると見違えるほど立派になった。それが人目を引いたものらしい。

京子には、女事務員の仲間が数人いる。彼女等の中には、女特有の鋭い勘で、私と京子との関係を気付いてる者がいたようだ。私の男の同僚の中にも、私たちのことをうすうす気付いてる者がいたらしい。それでも、別に問題になるほどのことではなかった。そこへ突然、京子の新調の洋服だ。男にとってはどうでもよいことだが、女にとっては大問題である。京子は仲間たちから新たな好奇の眼で見られ、直接の揶揄まで浴びせられた。京子の方では上手に出て、私からの援助を平然と匂わしたと見える。

その波紋がどう拡がっていったかは、私には分らないが、間もなく私の方へも打ち返してきた。

会社からの帰途、中尾が私を追っかけて来て、顔馴染みの酒場へ誘った。そして焼酎を飲みながら、探りを入れてきた。それも私に対する好意からのことであるから、私にとっては却って厄介なのである。

「君はいろいろな人から金を借りてるらしいが、それほど困ってるようにも見えない。