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ほどよいひと
程よい人
豊島 与志雄
「女性線」1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,328 字 · 21 页
いったいどうしたわけなのか、打ち明けてくれないか。言いにくいことだったら、無理に聞こうとは思わないが、少し心配になるよ。」
「いや、簡単なことだ。」
伯父からの仕送りの約束がとかく後れがちなので、その間のつなぎに借金をするのだと、私は説明した。伯父という架空の人物は常に使っているので、省略するわけにはゆかないのである。
「然し、借金の数が次第に殖えてるらしいじゃないか。現在、幾人ぐらいから借りてるんだい。」
その言葉から察すると、私の借金はもうだいぶ知れ渡って、一般的な話題ともなってるらしい。然し、期日に間違いなく返せばいいわけなのだ。私はそれを言った。
「うむ、それはそうだがね。僕に対しても君はそうだったし、約束を違えたことは一度もないらしい。だが、遂にはどうにもならなくなるよ。僕はそれを心配してるんだ。行き詰まりの日が必ず来る。その時は、どうするんだい。」
「自殺か犯罪か、と君は考えるだろうが、大丈夫、心配はいらんよ。」
中尾はぎょっとしたように私の眼を見つめた。自殺か犯罪か、それを彼は想像したに違いないし、他にも同様な者がいるらしい。然し私のような程よい人間に、そんな大それたことが出来るものか。