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ほどよいひと
程よい人
豊島 与志雄
「女性線」1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,328 字 · 21 页
中尾は突然話をかえた。
「立ち入ったことを言うようだが、あの三上京子ね。彼女に、君は貢いでるか搾られてるかして、だいぶ金を使ってるという噂もある。これは注意しなけりゃいかんね。」
私のことが問題になったのはそんなところからだろうと、私は直ちに感じた。これは全くまずい。私は嘘を言った。彼女に金を借りたことがあるので、御礼心に洋服地を贈っただけで、他意はないし、第一、女に対する礼は厚くしなければならない、などと言いながら、私は少し冷汗をかいた。中尾は信じかねるように、そして不満そうに、焼酎をあおった。
「いろいろ噂にも上ってることだし、用心しなくちゃいかんよ。」
そのようなことで、結局あやふやに終った。私の方では、借金の整理方法もつきかけてるから安心してくれと、中尾の手を握りしめてやった。実のところ、もう大して借金を繰り返さなくともよいところまで、黒川の手にある私の資金は太っていたのである。
会社に於ては、私の周囲に微妙な雰囲気が漂っていた。ひそひそとした噂話、好奇の眼、不安そうな眼、冷淡な素振り、わざとらしい同情的態度など、さまざまなものが私を中心にして埃のように舞い立ってる感じだ。