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ほどよいひと

程よい人

豊島 与志雄

「女性線」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,328 字 · 21 页

青空文庫

私が仕事を終えたのを見届けて、茶を持ってきてくれたものらしい。

西山さんは私のそばに腰を下して、私と同じく茶を飲み煙草をふかした。

「お淋しいでしょう。」と彼はぽつりと言った。

私が何のことか分らずにぼんやりしてると、京子さんが会社をやめたんで……と事もなげに言ってのけるのである。それから一つ二つ世間話をして、彼はまた事もなげに尋ねた。

「あなたはだいぶ借金があるとのことですが、いったい、全部でいかほどになりますかな。」

全く世間話の調子なのである。会社の多くの者が問題にしてる私の借金のことも、善良な西山さんには全くの日常茶飯事らしい。私は曖昧な返事でにごしたが、彼はおかまいなしにいろんなことを言う。つまり、借金などというものは多くの相手からなすべきものではなく、出来得れば一人からが一番よい。期限を厳重に守るのは、私のような若い者としては感心の至りである。ついては、会社の給料と万一の場合の退職手当とを担保にするなら、月賦払いにでもして、入用な金額を一纒めにお世話してもよい。京子さんの方にも金がかからなくなったから、月賦払いなら楽だろう。その代り、この節のことだから、月一割ほどの利子は出して貰いたい……。