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ちごほうし
稚子法師
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1924(大正13)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,609 字 · 16 页
事は忽には出来なかった。「先ず切腹」と定られた。併し殿は斯う云われた。「私闘の罪は許すことはならぬ。但し、主水ただ一人へ、二人同時にかかったということだ」
助けよという意味が言外にあった。そこで主水は秩禄没収追放ということになったのである。
情ある友に送られて、住みなれた領内を出た時には、さすがに後が返り見られた。先生の形見と懐中にしたのは清音楼集一巻である。
木曽川や藤咲く下を行く筏
卯の花を雪と見て来よ木曽の旅
季節は晩春初夏であった。老鶯も啼いていた。筏を見ては流転が思われ、旅と感じて行路難が犇々と胸に浸みるのであった。
奈良井まで来た時友とも別れ、行雲流水一人旅となった。木の根へつく然と腰を掛け、主水は茫然と首垂れた。
畑を鋤いている農夫でもあろう、唄うたう声が聞えて来た。それは盆踊の唄である。いつも耳にする唄である。
「そうだ。裸でも寝られる浮世だ。襦袢一枚でも暮らせば暮らせる。武士で居ようと思えばこそ見得や外聞に捉らわれて、刄傷沙汰に及んだり広い天地を狭く暮らしたりする。いっそ両刀を投げ出して了ったら却って延々とするかもしれない。俺は思い切って百姓になろう」