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いねのいちにち

稲の一日

中谷 宇吉郎

「世界」1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,013 字 · 20 页

青空文庫

それに肥料なしで栽培が出来るというのは、矛盾しているようである。しかしその謎は簡単に解ける。まず人工米が出来るようになったら、政府の方で白米しか喰ってはいけないという法律を出すことにする。それも思い切って精白して、猿の歯のような米だけを皆に喰わすのである。米粒の内部は殆んど純粋な澱粉で、ビタミンや、蛋白などは少量しかはいっていない。それ等はむしろ精白の時に出る糠の中にはいっている。もともと澱粉は炭酸ガスと水とから出来たものであるから、その中には窒素だの加里だの燐だのという肥料の大切な元素ははいっていないわけである。

窒素や加里や燐はもちろん必要で、初めにはそれ等を含んだ完全肥料を充分に施す必要がある。しかし人間が喰うのは白米即ち澱紛だけとすると、結局人間は炭酸ガスと水だけ喰うので、加里や燐は稲の生体や籾殻や糠などの中にあるわけである。いずれにしても、それ等の元素は、栽培した物の中にあるにはちがいない。それでそれを全部集めて回収すれば、入れただけの物は出て来るはずである。即ち第二回目からは、回収した元素を薬品に戻して使えばよいので、肥料は第一回に用意したものだけでよいことになる。